本質安全と機能安全の分類/インターフェース8月号補足

2015年8月号掲載の本質安全と機能安全の解説において説明を補足します。

本質安全と機能安全の分類について、「この対策は本質安全か?機能安全か?」という質問をいくつかいただきました。またインターフェースの記事の中の「防護壁は本質安全か?」という疑問や、「どちらにも分類できない場合もあるのでは?」というご質問もありました。

防護壁は本質安全か?

防護壁を設置しても隕石と衝突する危険そのものが排除されるわけではない(踏切のように抜本的にありえない状態にならない)と考えれば、強度が十分な防護壁を作っても本質安全とは言えないのではないかという考え方です。実はこの考え方も正しいです。隕石という危険が持つエネルギーは軽減されていませんから、危険そのものは厳然と残っていると言えます。もしもそれがガンダムの持つ盾のような構造物の場合、どこかの溶接が外れいていて壊れるかもしれません。何回も衝突すれば効力がなくなるかもしれません。

一方で記事の挿入カットのように、何十メートルもあるコンクリートで覆い居住区を守る場合、設定の通り遠方から存在が確認できない程度の大きさの障害物であれば、コンクリートが損傷することがあっても居住区が危険になることはありません。あっても大幅に衝突エネルギーは軽減されています。

安全対策には、「①危険源の除去」と「②危険のひどさの軽減」「③発生確率の低減」という方策がありますが、後半の②③は本質安全とは異なり、「本質的安全」の方策として区別する方もいらっしゃいます。またそれに加えて方策の実現方法が、自然現象や物理法則で守るならば本質安全だけれども、なにかの構造物(溶接やねじ止めなどを用いた構造)ならば本質安全ではない、という考え方もあります。

たとえば台所のガスコンロは、炎の熱がなくなると自然現象的にガスが止まる仕組みになっています。これは本質安全か、機能安全かと議論があります。消火装置のスプリンクラーは、火事の炎の熱という物理現象で確実に栓が開きます。これも果たしてどちらか。私は多少なりとも構造物なので、これは機能安全だと考える立場ですが本質安全だという意見もあります。

今回のインターフェースの記事では、組込みシステム技術者の皆様に組込みシステムの信頼性技術が社会を支えてること、大切な技術であることを知って頂くことを目的としていますので、上記の議論はわかり易くすべて本質安全にカテゴライズしました。つまり防護の方策が単純な自然現象に依存した方策で危険源のエネルギーを削減し、危険のひどさを小さくする方策は本質安全に区分するという考え方を採用しました。

子供用彫刻刀の先端カバーは機能安全か?

このような製品が最近は使われていることを大学の講義で生徒さんから教えてもらいました。そのうえで、この先端のカバーは機能安全か?というご質問です。

製品紹介:http://www.craypas.com/products/lineup/detail/769.php
使い方 :http://www.ayumu-kyouzai.net/hpgen/HPB/entries/26.html

これはとても困った質問です。間違いなく危険そのものはなくなっていません。けれど構造らしい構造もなくカバーがクッションになって怪我の程度が低くなる効果はありそうです。

お話を伺った際には実物を見ておらずイメージ的には本質安全的な対策ではないかと生徒さんに答えました。しかしその後調べるなかで、取扱いが不適切だと怪我につながるという性質のものだと知りました。自然現象や物理現象で自然に働く防護策とは言えない気がします。よって今の段階ではこれは機能安全の部類というべきではないかと考えています。私の個人的な意見です。

このように身の回りにある安全への方策を本質安全と機能安全に分類するときには、その議論の立ち位置や観点で分類が変わる方策がありえます。

なぜならこの分類は、生み出された結果の対策を分類することが目的ではなく、その安全の方策を考えだすときの起点やアプローチとしての分類だからです。